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額をほとんど用いず背面全体を使って主題を描き上げた、実に信州 まなぶ氏らしい迫力に満ちた不動明王。氏はステンシルに頼らずフリーハンドで肌に直接下絵を描いていくが、キャンバスの隅々まで余すことなく使うこうした構図はその賜物だと言える。堂々たる力強さに溢れる作品だが、衣や羂索の細緻極まるディテールも見逃せない。
神仏は一般的に穏やかな相貌をしているが、不動明王は非常に恐ろしい怒りの表情を浮かべている。これは仏法に従わず煩悩を抱えた救い難い衆生を、たとえ力尽くであっても救済せんとする姿である。手に持つ三鈷剣は人々の煩悩を断ち切るため、そして羂索は煩悩から抜け出せない人々を縛り上げてでも救い上げるために用いるとされている。
両肩には風雨や雷といった自然現象を神格化した風神雷神があしらわれる。仏教においては仏法を守り悪を懲らしめ善を勧めると同時に、天候を整える力を持つ。そのため農耕には欠かせない神格であり、豊穣をもたらすとして古くから信仰されている。その他、銭亀や夫婦鯉、打出小槌、白蛇といった縁起物も腕や腿に見受けられる。