【東洋美術の流れを汲む、繊細な濃淡の妙】
観光客が闊歩する華やかな表通りと、そこに暮らす人々の生活が息づく裏路地。チャイナタウンとして東アジア最大の規模を誇る横浜中華街は、清濁飲み込み発展を続けてきた。そんな日本でありながら日本ならざる混沌とした喧騒の縁に一軒のスタジオがある。和彫りを専門とするDEMPATOO TATTOO STUDIOだ。
特殊な土地柄ゆえさぞ癖の強い彫り師が店の主かと勘繰る向きもあるだろうが、その実、扉を開けると出迎えてくれるのは物腰穏やかな凛とした女性だ。名は豊梵天。かの二代目梵天・遊水氏に師事し、5年の修行を経て独立を認められた二代目梵天一門の正統である。18歳になるやすぐに弟子入りを志願し、その刺青人生は既に20年を超える豊富な実績の持ち主だ。
豊梵天氏の作風にはライフワークとして取り組む工筆画からのフィードバックが見て取れる。工筆画とは日本の水墨画の源流である中国発祥の墨絵の一種だ。鉱石や植物からできた顔料と墨を使い、薄く伸ばした色を幾度も重ね塗りして描いていく技法を用いており、極めて淡いグラデーションが見る者を惹き付ける。
氏の刺青にも同様の特徴が現れており、繊細なぼかしが非常に美しい。刷物である浮世絵を下地とする伝統和彫りは比較的フラットな色遣いを旨とするが、それとはまた異なった世界観を呈している。しかしそこに西洋の匂いは一切感じられない。あくまでも東洋美術の流れを汲んでいるのである。
Her style is influenced by gongbi, which she’s been honing for years and is a type of ink painting that originated in China and would later have an huge effect on Japanese ink painting. It uses pigments and ink made from ores and plants. The artist paints with a technique of applying thin layers of color, with the extremely pale gradation that attracts the viewer.
The same characteristics appear in Yutaka Bonten’s tattoos; the delicate bokashi (meaning “blur”) is undeniably beautiful. Traditional Japanese tattooing based on ukiyo-e prints has a relatively flat color scheme, but her works presents a different worldview. However, there is no hint of the West. Her style is solely based on the flow of Eastern art.
豊梵天氏の作品、特にカラス彫りは中国最古の絵画史をまとめ“画史の祖”と称された張彦遠が残した言葉「墨に五彩あり」を思い起こさせる。その真意は諸説あるが、筆者は「墨の濃淡はあらゆる色を表現する」という意味だと理解している。しっとりとしたモノトーンの世界に万象の彩りを垣間見るのだ。
また氏は日本舞踊の嗜みもあり、その所作や間の置き方から学ぶことも多いと話す。一例を挙げると、指先にまで神経を研ぎ澄ませる舞いを習得する中で“動き”の細やかさを意識できるようになり、人物画の表現の幅が広がったのだそうだ。なるほど、氏の描く人物像は仕草のひとつにまで気が行き届いており、描写が疎かにされていない。
さりとて豊梵天氏は古式に則ってばかりいるわけではなく、現代的な遊び心を持ったアプローチも得意としている。そのひとつに氏が“和ンポイント”と呼ぶ小品群がある。背中一面、腕一本といった大仰なスタイルに限らず、もっと気軽に和彫りに親しんでもらおうと始めたものだ。海外から横浜に観光に来る旅行者のスーベニアタトゥーにも打ってつけだろう。
Despite her traditional training, Yutaka Bonten is not constrained by the old-fashioned way; she is also proficient with modern and playful approaches. One of these modern interpretations are small tattoos she calls “wan point”; wa meaning Japanese style. She started this to facilitate ease of entry for everyone to get acquainted with Japanese tattooing, as opposed to the all-encompassing traditional style of a full back, sleeve, or bodysuit. Wan point is also perfect for overseas tourist’s souvenir tattoos who come to Yokohama for sightseeing.
かつてとある映画にて語られた「刺青はその人の運命さえも変えてしまう」というセリフに感銘を受け、その道を志した豊梵天氏。ともすれば夢見がちな少女だったと言えるかも知れない。図書館で刺青関連の書籍に没頭する中で初代梵天氏の存在を知り、そのマルチな才覚に衝撃を受けて一門の扉を叩いた。苦しい修行時代を経て独立を果たしたとき、そこにはもう甘い幻想を抱く少女はいなかった。あったのは刺青と真摯に向き合うプロフェッショナルな彫り師の姿だ。
今時のオシャレな女の子から昔気質の稼業人まで、DEMPATOOの客層は実に幅が広い。「刺青はその人の自信にもなり鎧にもなる。運命や人生を変える力があるというのは今でも本当だと思います。折角ならその人生が豊かになるようにお手伝いがしたいですよね」と微笑むその人柄に、引きも切らさずクライアントが訪ねてくる理由の一端を見た気がした。
From the fashionable girls of today to the old-fashioned yakuza, the clientele of Dempatoo is very broad. “Tattoos can be a person’s confidence and armor. I still think it is true that it has the power to change one’s destiny and life. If I have the chance, I would like to help people enrich their lives,” she said while smiling, and in that moment the reason why her clients continue to return became clear.
Dempatoo Tattoo Studio
住所: 神奈川県横浜市中区山下町127-9
営業時間: 10:00〜20:00(水曜定休)
Eメール: info@dempatoo.com
※完全予約制につき、まずは問い合わせを。
Address: 127-9 Yamashita, Naka-ku, Yokohama city, Kanagawa
Business Hour: 10:00〜20:00(Closed on Wednesday)
Email: info@dempatoo.com
※Appointment only.