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色を使わず墨の濃淡のみで表現するカラス彫りの手法によって描き上げられた張順の水門破り。安定した力強いスジとメリハリの利いたボカシにより、単色ながら多色使いの作品に勝るとも劣らない迫力を生み出している。まとまりの良い端正な描画と和彫り特有の凄みの両立こそが町田 彫剣氏の特長だと言えるだろう。ヒカエから腕にかけては潔く桜吹雪のみとすることで、彫剣氏の追求する額の美しさが存分に示されている。
張順は『水滸伝』に登場する英傑のひとりで泳ぎの達人であり、渾名は波をくぐって泳ぐハヤを意味する“浪裏白條”(浮世絵のタイトルとしては浪裡白跳とも)。ここに描かれるのは水門破りとして知られる一幕である。籠城した敵軍を突き崩すため、張順が単身で川を辿り、城へと続く水門を怪力で打ち破った逸話に基づいている。このとき張順は敵軍に発見され悲運の最期を遂げるが、その後、長江の水神である金華将軍として祀られた。